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最高裁判所第三小法廷 昭和47年(行ツ)76号 判決 1974年6月11日

上告人 秋田南税務署長

訴訟代理人 松沢智 外三名

被上告人 株式会社古井商店

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人香川保一、同松沢智、同叶和夫、同仙波英躬、同伊藤洋逸の上告理由について。

論旨は、要するに、原判決が、本件青色申告書提出承認取消処分の通知書に取消しの基因となつた事実の附記がないことを理由として右処分を違法としたのは、昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法(昭和二二年法律第二八号。以下「旧法人税法」という。)二五条九項後段の規定の解釈適用を誤つたものであるというのである。

思うに、旧法人税法二五条は、その八項において、青色申告書提出承認の取消し(以下単に「承認の取消し」という。)の事由を一号ないし五号に掲げる五つに限定したうえ、その九項において、承認の取消しをしたときは、その旨を当該法人に通知すべく、当該通知の書面には承認の取消しの基因となつた事実が同条八項各号のいずれに該当するかを附記しなければならないものと定めているが、同法が承認の取消しの通知書にこのような附記を命じたのは、承認の、取消しが右承認を得た法人に認められる納税上の種々の特典(前五事業年度内の欠損金額の繰越し、推計課税の禁止、更正理由の附記等)を剥奪する不利益処分であることにかんがみ、取消事由の有無についての処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、承認の取消しの理由を処分の相手方に知らせることによつて、その不服申立てに便宜を与えるためであり、この点において、青色申告の更正における理由附記の規定(旧同法三二条)その他一般に法が行政処分につき理由の附記を要求している場合の多くとその趣旨、目的を同じくするものであると解される。それゆえ、この場合に要求される附記の内容及び程度は、特段の理由のないかぎり、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを処分の相手方においてその記載自体から了知しうるものでなければならず、単に抽象的に処分の根拠規定を示すだけでは、それによつて当該規定の適用の原因となつた具体的事実関係をも当然に知りうるような例外の場合を除いては、法の要求する附記として十分でないといわなければならない。

この見地に立つて旧法人税法二五条の規定をみるに、同条八項各号に掲げられた承認の取消しの事由は青色申告制度の基盤をなす納税者の誠実性ないしその帳簿書類の信頼性が欠けると認められる場合を類型化したものであるが、具体的事案においていかなる事実がこれに該当するとされるのかは必ずしも明らかでなく、特に同項三号の取消事由は極めて概括的で具体性に乏しいため、取消通知書に同号に該当する旨附記されただけでは、処分の相手方は、帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性が義わしいとされた理由が、取引の全部又は一部を隠ペいし又は仮装したことによるのか、それともそれ以外の理由によるのか、また、右の隠ペい又は仮装が帳簿書類のどの部分におけるいかなる取引に関するものであるのか等を、その通知書によつて具体的に知ることは、ほとんど不可能であるといわなければならない。のみならず、承認の取消しは、形式上同項各号に該当する事実があれば必ず行われるというものではなく、現実に取り消すかどうかは、個々の場合の事情に応じ、処分庁が合理的裁量によつて決すべきものとされているのであるから、処分の相手方としては、その通知書の記載からいかなる態様、程度の事実によつて当該承認の取消しがされたのかを知ることができるのでなければ、その処分につき裁量権行使の適否を争う的確な手がかりを得られないこととなるのである。

以上の点から考えると、同条九項後段の規定は、その文百だけからは、一見、承認の取消しが局条八項各号のいずれによるものであるかのみを附記すれば足りるとするもののようにみえないでもないけれども、このような解釈が前記理由附記の趣旨、目的にそうものでないことは明らかであり、他方、そのような不十分な附記で足りるとする特段の合理的理由も認められないのである(承認の坂消しを行う処分庁としては、既に具体的な取消事由についての訓査を経ているはずであるから、これを具体的に処分の相手方に通知すべきものとしても、さほど困難な事務処理を強いられるものとは考えられない。)から、同項三号におけるように該当号数を示しただけは承認の取消しの基因となつた具体的事実を知ることができない場合には、通知書に当該号数を附記するのみでは足りず、右基因事実自体についてもこれを処分の相手方が具体的に知りうる程度に特定して摘示しなければならないものと解するのが、相当である。このように解しても、必ずしも所論のいうように同条九項後段の文理及び立法経過と相容れないものということはできないし、また、同条項後段が前記青色申告の更正の理由附記に関する規定とその形式を異にする点も、承認取消処分と更正処分の性質、内容の差異を考慮すれば、いまだ右の解釈を妨げる根拠とするに足りない。

所論は、承認の取消しにあたつては、それに先行する税務調査の過程で帳簿書類の不備、不正等の点が具体的に問題とされるのが通例であり、したがつて、処分の相手方は、通知書に取消事由の該当号数さえ記載されていれば、取消処分がいかなる判定に基づいてされるに至つたかを了知することができるのであるから、取消処分の理由附記の程度としてはそれで十分であると、主張する。しかし、税務調査の過程において帳簿書類の不備等が指摘されたとしても、これによつて処分庁が最終的判断としていかなる事実を取消事由と認めたのかを知りうるものではないから、取消通知書に事実の附記がなくても処分の相手方が具体的な取消事由を知りうるのが通例であるとはとうてい認めることができない。所論は、また、保釈の取消しや勾留における理由の記載の程度についての解釈、及び青色申告承認申請に対する却下処分について書面による通知、理由附記が要求されていないこととの対比をいうが、前者のような緊急を要する刑事上の裁判や、後者のような法自体が処分の性質に差異を認めて書面による通知等を要求していない拒否処分との対比を論ずることは、当をえないものであるといわなければならない。

通達

以上述べたところからすれば、単に旧法人税法二五条八項三号に掲げる事実に該当すると附記されているにすぎない本件青色申告書提出承認取消処分の通知書は、法の定める附記の要件を欠くものというほかなく、これと同趣旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、右と異なる見解に立つて原判決を非難するにすぎないものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条 民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 関根小郷 天野武一 坂本吉勝 江里口清雄 高辻正己)

上告理由書<省略>

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